ガソリン価格の高騰が、県内の介護、福祉現場に深刻な影を落としている。車の送迎費用は、デイサービスなど定額の介護報酬に含まれているため、高騰分はそのまま事業者の持ち出しとなるためだ。県や市町村からの手当ても期待できそうもなく、「送迎をやめるわけにもいかず、結局は人件費を削るしかない……」との声が漏れている。
高齢者向けデイサービスを展開する紫波町平沢の「宅老所えんどり」の事業所では、通所者9人の送迎で長い日には、1日片道30〜40キロ車を走らせる。収入は介護保険法に基づいて国が定めた介護報酬と利用者からの食材費390円(1日)のみ。送迎費は介護報酬に含まれており、介護報酬が改定されない限り高騰分は手当てされない。
藤原歩所長(39)は、「ガソリン代がかさむからといって送迎をやめるわけにはいかず、高騰分は私たちの給料を減らして吸収するしかない。ただでさえ、安月給を敬遠して若い人の介護離れが進んでいるのに…」と頭を抱える。
「私らみたいに移動の足がない者には、送り迎えは本当に助かる。なくなったらどこにも行けなくなってしまう…」。この宅老所に週4回通っているという無職女性(87)は、不安そうにこうつぶやく。
盛岡市上太田の特別養護老人ホーム「千年苑」は、市内の病院へ入所者を無料で送迎している。1か月当たりの燃料費は、この1年間で1・5倍となり、負担月額は約12万円に上る。高橋司総務係長は「170円台なら月額15万以上に膨れる。どの出費を削れば良いのか」と漏らす。
障害者支援の現場からも同様の声が上がっている。矢巾町など遠方からの入所者も抱えている、盛岡市黒石野で知的障害者施設を営むNPO法人「のびっこ寮育センター」の鏡英夫代表(66)は「職員の給料は減らせず、自分の貯金を使うしかない。自治体に支援してほしい」と話す。
こうした現状に対し、県は「県独自の補助は財源的にも難しい。一般のドライバーなどと同じで、福祉関係者にも節約をしてもらうしかない」(障害保健福祉課)との立場だ。
今後も、価格の上昇が予想されるガソリン代。赤い羽根共同募金などで障害者の無料送迎を行っている盛岡市社会福祉協議会は、「来年度から有料にすることも検討しないと」と、無料送迎廃止も視野に置いている。
職員の給料削減恐れも年末には1リットル当たり200円に達するとの見方もあるガソリン価格。価格の高騰は、老後の安心を担う事業者の存亡をも左右しているといっても過言でない。
価格の高騰分をどこが吸収するのか。ただでさえ人材流出が続く介護現場にはもはやその余力はない。このままでは、職員の給料削減やサービスの低下という事態につながりかねない。
県の担当者は「ガソリン代が上がっているのは知っているが、大変だという声は届いていない」と、事業者の深刻さとは対照的に第三者的なもの言いだ。
介護報酬の算定基準が法律で細かく定められ、財源的にも自治体が独自に補助を上乗せするのは難しいかもしれない。しかし、住民の最大の関心事はこうした社会保障の充実だろう。
来年4月からの介護報酬の改定に向けた見直し作業がまもなく始まる。県や各市町村の担当部局は、現場の切実な声に真摯(しんし)に耳を傾け、見直し議論に反映させてほしい。